千載和歌集
春歌
立春日よめる
源俊頼朝臣
一 春のくるあしたのはらをみわたせば
かすみもけふぞたちはじめける
堀河院御時、百首歌たてまつり
けるときよみ侍りける
中納言国信」八一ウ
二 みむろやまたににやはるのたちぬらむ
ゆきのしたみづいはたたくなり
百首歌たてまつりけるとき初
春のこころをよめる
待賢門院のほりかは
三 ゆきふかきいはのかけみちあとたゆる
よしののさとも春はきにけり
ほりかはの院の御時、百首歌たてまつり
ける時残雪をよみ侍りける
前中納言匡房
四 みちたゆといとひしものをやまざとに」八二オ
きゆるはをしきこぞのゆきかな
承暦二年内裏後番歌合に
鶯をよめる
藤原顕綱朝臣
五 春たてばゆきのしたみづうちとけて
たにのうぐひすいまぞなくなる
後冷泉院御時、皇后宮の歌合によ
み侍りける
大納言隆国
六 山ざとのかきねに春やしるからむ
かすまぬさきにうぐひすのなく」八二ウ
法性寺入道前太政大臣内大臣に侍ける
とき、十首歌よませ侍けるによめる
源としよりの朝臣
七 けぶりかとむろのやしまをみしほどに
やがてもそらのかすみぬるかな
右大臣に侍りける時、家に歌合し
侍りけるにかすみのうたとてよみ
はべりける
摂政右大臣
八 かすみしく春のしほぢをみわたせば
みどりをわくるおきつしらなみ
堀河院御時、百首歌たてまつり」八三オ
けるうちわかなのうたとてよめる
源としより朝臣
一四 かすがののゆきをわかなにつみそへて
けふさへそでのしをれぬるかな
梅花よるかうばしといふこころを読る
二六 むめがかはおのがかきねをあくがれて
まやのあまりにひまもとむなり
百首歌めしけるとき、春のうたとて
よませたまうける
崇徳院 御製
四一 あさゆふに花まつころはおもひねの
ゆめのうちにぞさきはじめける」八三ウ
待賢門院のほりかは
四二 いづかたに花さきぬらむとおもふより
よものやまべにちるこころかな
故郷花といへるこころをよめる
よみ人しらず
六六 ささなみやしがのみやこはあれにしを
むかしながらの山ざくらかな
百首歌たてまつりけるとき、花歌
とてよめる
藤原季通朝臣
八〇 よしのやま花はなかばにちりにけり
たえだえのこるみねのしらくも」八四オ
堀河院御時、百首歌たてまつりける
とき、よめる
河内
一三五 けふくれぬ花のちりしもかくぞありし
ふたたび春はものをおもふよ
夏歌
卯花歌とて( )
仁和寺後入道法親王覚( )
一四一 たまがはとおとにききしは卯のはなを
つゆのかざれるなにこそありけれ
堀河院御時、百首歌たてまつりける時、
あふぎをよめる」八四ウ
藤原もととし
一四六 あふひぐさてるひは神のこころかは
かげさすかたにまづなびくらむ
賀茂のいつきおりたまひてのち、
まつりのみあれの日、人のあふひを
たてまつりて侍りける(に)かきつけられ
て侍ける
( )式子内親王
一四七 神山のふもとになれしあふひぐさ
ひきわかれてもとしぞへにける
暮天郭公といへるこころを( )
仁和寺法親王守−
一五七 ほととぎすなをはつこゑをしのぶやま」八五オ
ゆふゐるくものそこになくなり
後朱雀院御時、( )一品内親王歌合に
花たちばなをよめる
枇杷殿皇太后宮の五節
一七一 ただならぬ花たちばなのにほひかな
よそふるそではたれとなけれど
百首歌めしける時花たちばな
のうたとてよませ給( )ける
崇徳院 御製
一七六 さみだれに花たちばなのかほるよは
月すむ秋もさもあらばあれ」八五ウ
堀河院御時、百首歌たてまつりける時、
ともしのこころをよめる
前中納言匡房
一九四 ともしするみやぎがはらのしたつゆに
しのぶもぢずりかはくよもなき
題しらず
( )としよりの朝臣
二〇二 あはれにもみさほにもゆるほたるかな
こゑたてつべきこのよとおもふに
秋歌
秋立日よめる
侍従乳母」八六オ
二二六 秋たつとききつるからにわがやどのをぎ
のは風のふきかはるらむ
初秋のこころをよめる
寂然法し
二三〇 秋はきぬとしもなかばにすぎぬとや
をぎふく風のおどろかすらむ
だいしらず
いずみしきぶ
二四七 人もがなみせもきかせもはぎのはな
さくゆふかげのひぐらしのこゑ
百首歌たてまつりけるとき、秋歌
とてよめる
( )すゑみちの朝臣」八六ウ
二五八 野分するのべのけしきをみるときは
こころなき人あらじとぞおもふ
( )としなり
二五九 ゆふさればのべの秋風身にしみて
うづらなくなりふかくさのさと
だいしらず
( )としよりの朝臣
二六〇 なにとなくものぞかなしきすがはらや
ふしみのさとの秋のゆふぐれ
権中納言俊忠(卿)かつらの家にて
水上月といへるこころをよめる
二八一 あすもこむのぢのたまがははぎこえて」八七オ
いろなるみづに月やどりけり
百首歌たてまつりける時(しかの歌
とて)よめる
待賢門院のほりかは
三一一 さらぬだにゆふべさびしきやまざとの
きりのまがきにをじかなくなり
だいしらず よみ人しらず
三二六 おどろかすおとこそよるのをやまだは
人なきよりもさびしかりけれ
源兼昌
三二七 わがかどのおくてのひたにおどろきて
むろのかりたにしぎぞたつなる」八七ウ
冬歌
だいしらず いづみしきぶ
三九六 とやまふくあらしの風のおときけば
まだきにふゆのおくぞしらるる
馬内侍
四〇二 ねざめしてたれかきくらむこのごろの
このはにかかるよはのしぐれを
歌
だいしらず 藤原範永朝臣
四九八 ありあけの月もしみづにやどりけり
こよひはこえじあふさかのせき」八八オ
法性寺入道前太政大臣、内大臣に侍り
ける時、関路月といへる心をよめる
中納言師俊
四九九 はりまぢやすまのせきやのいたびさし
月もれとてやまばらなるらむ
崇徳院に百首歌めしけるとき、
たびの歌とてよめる
待賢門院安芸
五一四 ささのはをゆふつゆながらをりしけば
たまちるたびのくさまくらかな
恋歌」八八ウ
堀河院御時、百首歌たてまつりけるとき、
はじめの恋のこころをよめる
( )俊頼朝臣
六四一 なにはえのもにうづもるるたまかしは
あらはれてだに人をこひばや
権中納言俊忠卿家歌合によめる
後二条関白家筑前
六四四 おもふよりいつしかぬるるたもとかななみ
だやこひのしるべなるらむ
題しらず
いづみしきぶ
九〇六 ともかくもいはばなべてになりぬべし
ねになきてこそみすべかりけれ」八九オ
九五八 うらむべきこころばかりはあるものを
なきになしてもとはぬきみかな
雑歌
上東門院より六十賀おこなひたま
ひける時、よみ侍りける
法成寺入道前太政大臣
九五九 かぞへしる人なかりせばおくやまの
たにのまつとやとしをつままし
だいしらず 赤染
九八四 ものおもはぬ人もやこよひながむらむ
ねられぬままに月をみるかな」八九ウ
さがみ
九八五 ながめつつむかしも月はみしものを
かくやはそでのひまなかるべき
已上千載集