巻第十一 恋歌一 六四一
待賢門院のほりかは
六五三 あらいそのいはにくだくるなみなれや
つれなき人にかくるこころは
上西門院の兵衛
六五四 いはまゆく山のしたみづせきわびて
もらすこころのほどをしらなむ
権中納言俊忠家の歌合に、こひの
うたとてよめる
藤原基俊
六五五 みごもりにいはでふるやのしのぶぐさ
しのぶとだにもしらせてしかな」
( )中納言俊忠かつらの家にて、なき
名たつこひといへる心をよみ侍けるに
源としよりの朝臣
六五九 たちしよりはれずもものをおもふかな
なきなやのべのかすみなるらむ
(六六〇) こひのうたとてよめる」
六七〇
六六〇
歌合し侍ける時、忍恋の心を
よめる
六六六 こひしなばよのはかなきにいひおきて
なきあとまでも人にしらせし
顕昭法し
六六七 人しれぬなみだのかはのみなかみや
いはでの山のたにのしたみづ
六六八 いかにせむみかきがはらにつむせりの
なにのみなけどしる人のなき」
六七八 さきにたつなみだとならば人しれず
こひぢにまどふみちしるべせよ」
六八四 人しれずおもふこころはふかみぐさ
花さきてこそいろにいでけれ
だいしらず
津守国光
六八五 日をへつつしげさはまさるおもひぐさ
あふことのはのなどなかるらむ
大中臣清文
六八六 おつれどものきにしられぬたまみづは
こひのながめのしづくなりけり
(六八七) 源季貞」
皇嘉門院の別当
六九四 しのびねのたもとはいろにいでにけり
こころにもにぬわがなみだかな
女のなき名たつよしうらみて
侍ければ、つかはしける
左兵衛督隆房
六九五 おなじくはかさねてしぼれぬれころも
さてもほすべきなきなならじを
(六九六) 返し よみ人しらず」
千載和歌集巻第十二
恋歌二
ほりかはの院の御時、百首歌たて
まつりける時、こひの心をよみ侍ける
大納言公実
七〇四 おもひあまり人にとはばやみなせがは
むすばぬみづにそではぬるやと
だいしらず
花ぞのの左大臣」
七〇五 はかなくも人にこころをつくすかな
身のためにこそおもひそめしか
二条太皇太后宮の大弐
七〇六 こひそめしひとはかくこそつれなけれ
わがなみだしもいろかはるらむ
白河院三条どのにおはしましける
とき、をのこども恋のうたよみ
侍けるによめる
前中納言雅兼
七〇七 かかりけるなみだと人もみるばかり
しぼらじそでよくちはてねただ
中院の右大臣中将に侍けるとき
歌合し侍けるにこひの歌とて
よめる
藤原宗兼朝臣
七一五 こひわたるなみだのかはに身をなげむ
このよならでもあふせありやと
百首歌たてまつりけるとき、恋
の歌とてよめる
前参議親隆
七一六 みちのくのとづなのはしにくるつなの
たえずも人にいひわたるかな」
七一五
七一七
七一八
七一九 しほたるるいせをのあまやわれならむ
さらばみるめをかるよしもがな
権大納言実家
七二〇 よしさらばあふとみつるになぐさまむ
さむるうつつもゆめならぬかは
右衛門督頼実
七二一 いかばかりおもふとしりてつらからむ
あはれなみだのいろをみせばや
俊恵法し
(七二二) こひしなむいのちをたれにゆづりおきて」
七三六 あふならぬこひなぐさめのあらばこそ
つれなしとてもおもひたえなめ
顕昭法し
七三七 つれなさにいまはおもひもたえなまし
このよひとつのちぎりなりせば
源慶法し
七三八 うたたねのゆめにあひみてのちよりは
人もたのめぬくれぞまたるる
朝恵法し
七三九 あはれともまくら許やおもふらむ
なみだたえせぬよはのけしきを」
七四九 くれにともちぎりてたれかかへるらむ
おもひたえたるあけぼののそら
よみ人しらず
七五〇 ちぎりおくそのことのはに身をかへて
のちのよにだにあひみてしかな
おほうちにて月あかかりけるよ、
人々あそびけるをほのかにみて、
こころあくがるるよしいひて侍
ける人のかへりごとに、つかはしける
(七五一) 殷富門院の尾張」
七六〇 わがそではしほひにみえぬおきのいしの
人こそしらねかはくまぞなき
だいしらず
民部卿成範
七六一 かかりけるなげきはなにのむくひぞと
しる人あらばとはましものを
太宰大弐重家
七六二 こひしなむことぞはかなきわたりがは
あふせありとは(き)かぬものゆへ」
七六三
七六四
七六五
千載和歌集巻第十三
恋歌三
だいしらず
藤原実方朝臣
七八〇 ちぎりこしことのたがふぞたのもしき
つらさもかくやかはるとおもへば
さがみ
七八一 しらじかしおもひもいでぬこころには
かくわすられずわれなげくとも」
七八二 つれもなくなりぬる人のたまづさを
うきおもひいでのかたみともせじ
七八三 やはらかにぬるよもなくてわかれぬる
よよのたまくらいつかわすれむ
ふむ月の七日のよ、大納言朝光も
のいひ侍けるを、又の日心あるさま
に人のいひ侍ければ、つかはしける
小大君
七八四 たなばたにかしつとおもひしあふことを
そのよなきなのたちにけるかな」
八〇〇 こひしさはあふをかぎりとききしかど
さてしもいとどおもひそひけり
左京大夫顕輔
八〇一 よそにしてもどきし人にいつしかと
そでのしづくをとはるべきかな
待賢門院のほりかは
八〇二 ながからむ心もしらずくろかみの
みだれてけさはものをこそおもへ
上西門院の兵衛
八〇三 よゐのまもまつに心やなぐさむと」
いまこむとだにたのめおかなむ
待賢門院のあき
八〇四 そなれぎのそなれそなれてふすこけの
まをならずともあひみてしかな
後朝恋のこころをよめる
従三位よりまさ
八〇五 人はいさあかぬよどこにとどめつる
わがこころこそわれをまつらめ
(八〇六) しのびたるところにまかりて、あり」
夏のこひのこころをよめる
前中納言雅頼
八一三 こひすればもゆるほたるもなくせみも
わが身のほかのものとやはみる
だいしらず
みぎのおほいまうちぎみ
八一四 ひきかけてなみだを人につつむまに
うらやくちなむよはのころもは」
八一七 おもひわびさてもいのちはあるものを
うきにたえぬはなみだなりけり
藤原仲実朝臣備中守にまかれ
りける時くしてくだりくだりけるを
おもひうすくなりてのち月を見」
たびのこひといへる心をよめる
よみ人しらず
八二三 おきてゆくなみだのかかるくさまくら
つゆしげしとや人のあやめむ
月前恋といへるこころを
八二四 なみだをもしのぶるころのわがそでに
あやなく月のやどりぬるかな」
巻第十四 恋歌四
ひさしうまうでこざりける人の、
おとづれたりける返事につかはし
ける
小式部
八四三 おもひいでてたれをか人のたづねまし
うきにたえたるいのちならずは」
権中納言俊忠、中将に侍けるとき、
歌合し侍けるに、こひのうた
とてよめる
伊予の三位( )敦兼朝臣母
八五一 こひわびてあはれと許うちなげく
ことよりほかのなぐさめぞなき
おなじ家に十首の恋のうた
よみ侍けるとき来不留( )といへる
こころをよみ侍ける
(八五二) 権中納言師時」
八五七
待賢門院のあき
八五八 こひをのみすがたのいけにみくさゐて
すまでやみなむなこそをしけれ
藤原清輔朝臣
八五九 つゆふかきあさまののらにをがやかる
しづのたもともかくはぬれじを
八六〇 あふことはいなさほそえのみをつくし
ふかきしるしもなきよなりけり
百首の歌よみ侍けるときこひ
の歌とてよめる
顕昭法し」
八六一 人づてはさしもやはともおもふらむ
みせばやきみになれるすがたを
をむなのかよふ人あまたきこ
ゆるに、つかはしける
平実重
八六二 あさましやさのみはいかにしなのなる
きそぢのはしのかけわたるらむ
だいしらず
八六三 人のうへとおもはばいかにもどかまし
つらきもしらずこふるこころを」
従三位よりまさ
八六八 みづぐきはこれをかぎりとかきつめて
せきあへぬものはなみだなりけり
むつきのついたちごろ、しのびた
るところにつかはしける
二条院 御製
八六九 たれもよもまだききそめじうぐひすの
きみにのみこそおとしはじむれ
御返し
よみ人しらず
(八七〇) うぐひすはなべてみやこになれぬらむ」
逸翁美術館所蔵 手鑑「谷水帖」
刑部卿範兼
八七三 月まつと人にはいひてながむれば
なぐさめがたきゆふぐれのそら
藤原為真
八七四 あしのやのかりそめぶしはつのくにの
ながらへゆけどわすれざりけり
円位法し
八七五 しらざりきくもゐのよそにみし月の
かげをたもとにやどすべしとは」
八八三 うつりがになにしみにけむさよごろも
わすれぬつまとなりけるものを
あけぐれのそらをともにながめ
ける女、またあふまでのかたみに
みむと申けるのち、つかはしける
右近中将忠良
八八四 わすれぬやしのぶやいかにあはぬまの
かたみとききしあけぐれのそら」
藤原隆信朝臣
八八八 人しれずむすびそめてしわかくさの
花のさかりもすぎやしぬらむ
希会不絶恋( )
藤原顕家朝臣
八八九 いかなればながれはたえぬなかがはに
あふせのかずのすくなかるらむ
摂政右大臣のとき、( )百首歌よま
せ侍けるとき、遇不遇恋をよめる
(八九〇) 源仲綱
道因法し
八九三 い勢しまやいちしのうらのあまだにも
かづかぬそではぬるるものかは
俊恵法し
八九四 おもひきやうかりしよはのとりのねを
まつことにしてあかすべしとは
夏夜恋といへるこころを
八九五 からころもかへしたはねじ夏のよは
ゆめにもあかで人わかれけり
(八九六) こひの歌とてよみ侍ける」
権中納言通親
九〇三 しぬとてもこころをわくるものならば
きみにのこしてなほや
こひまし
千載和歌集巻第十五
恋歌五
だいしらず
さがみ
九〇四 うたたねにはかなくさめしゆめをだに
このよにまたはみでややみなむ
いずみしきぶ
九〇五 ねをなけばそではくちてもうせぬめり
なほうきことぞつきせざりける」
花ぞのの左大臣の家に侍ける女、( )
に、まだ中納言など申けるころ、
もの申わたりけるを、かれがれに
なりにければ、おもひやたえにけ
む、さきのやましろのかみなり
けるものにもの申とききて、
いひつかはしける
中院の右大臣
九一七 まことにやみとせもまたで山しろの
ふしみのさとににゐまくらする」
京都国立博物館所蔵 手鑑「藻塩草」 国宝
(九一九) つらきはいまのこころのみかは
前参議親隆
九二〇 しるなればいかにまくらのおもふらむ
ちりのみつもるとこのけしきを
たいしらす
みぎのおほいまうちぎみ
九二一 はかなくもこむよをかねてちぎるかな
ふたたびおなじ身ともならじを
右近中将忠良
九二二 おもひいでよゆふべのくももたなびかば」
(九二五) このよ許とおもはましかば
殷富門院の大輔
九二六 かはりゆくけしきをみてもいける身の
いのちをあだにおもひけるかな
俊恵法し
九二七 きみやあらぬわが身やあらぬおぼつかな
たのめしことのみなかはりぬる
円位法し
九二八 ものおもへど( )かからぬ人もあるものを
あはれなりける身のちぎりかな」
藤原隆親
九三二 おもひしるこころのなきをなげくかな
うき身ゆへこそ人もつらけれ
源有房
九三三 おもふをもわするる人はさもあらばあれ
うきをしのばぬこころともがな
惟宗広言
九三四 はかなくぞのちのよまでとちぎりける
まだきにだにもかはるこころを
(九三五) 源仲頼」
九三六
九三七
九三八
九三九
九四〇
九四一
九四二
九四三
九四四
(九四六) 月もいまはのありあけのそら
右近大将実房
九四七 こひわぶるこころはそらにうきぬれど
なみだのそこに身はしづむかな
隔関路恋といへる心をよめる
前中納言雅頼
九四八 おもひかねこゆるせきぢによをふかみ
やこゑのとりにねをぞそへつる
(九四九) 九月つごもりに、女につかはしける」
九五五
九五六
九五七
九五八
九五九
九六〇
九六一
九六二
藤原道信朝臣
九六三 いもとねておきゆくあさのみちよりも
なかなかもののおもはしきかな
(九六四) 二月ばかり月あかきよ、二条の院
にて人々あまたゐあかしてもの
がたりなどし侍けるに、内侍周防
よりふして、まくらをがなとし
のびやかにいふをききて、大納言
忠家これをまくらにとてかゐ
なをみすのしたよりさしいれ」
九六五
九六六
九六七
九四六
九四七
九四八
九四九
巻第十六 雑歌上 九六〇
九六一
九六三
九六四
九七五
九七六
法性寺入道前太政大臣
九八一 ささなみやくにつみかみのうらさえて
ふるき宮こに月ひとりすむ
九八二 あまのがはそらゆく月はひとつにて
やどらぬみづのいかでなからむ
だいしらず
中務卿具平のみこ
九八三 ひとりゐて月をながむる秋のよは
なにごとをかはおもひのこさむ」
久我内のおほいまうち君
九八七 かくばかりうきよのなかのおもひいでに
みよともすめるよはの月かな
山家月といへるこころをよみ
侍りける時
皇太后宮大夫俊成
九八八 すみわびてみをかくすべき山ざとに
あまりくまなきよはの月かな
(九八九) 百首の歌たてまつりけるとき、
月のうたとてよめる」
かかへりまうできて、月前述懐と
いへるこころをよめる
登蓮法し
九九五 もろともにみし人いかになりにけむ
月はむかしにかはらざりけり
みやこをはなれてとほくまかる
こと侍けるとき、月をみてよみ
侍りける
法印静賢
九九六 あかなくにまたもこのよにめぐりこば
おもがはりすな山のはの月」
(一〇〇〇) かくれなはてそありあけの月
みのをの山でらに日ごろこもり
て、いで侍けるあかつき、月のおも
しろく侍ければ
仁和寺後法親王覚性
一〇〇一 このまもるありあけの月のおくらずは
ひとりや山のみねをいでまし
月のうたとてよみ侍ける
道性法孫王
一〇〇二 ことのねをゆきにしらぶときこゆなり」
陽明文庫蔵「大手鑑」
月さゆるよのみねのまつ風
権中納言長方
一〇〇三 あかでいらむなごりをいとどおもへとや
かたぶくままにすめる月かな
殷富門院にて人々百首歌よ
み侍けるとき、月の歌とてよめる
藤原定家
一〇〇四 いかにせむさらでうきよはなぐさまず
たのみし月もなみだおちけり
(一〇〇五) だいしらず」
藤原隆親
一〇〇八 さびしさも月みるほどはなぐさみぬ
いりなむのちをとふ人もがな
寒夜月といへる心をよみ侍ける
円位法し
一〇〇九 しもさゆるにはのこのはをふみわけて
月はみるやととふ人もがな」
だいしらず
法印慈円
一〇一七 山ふかみたれまたかかるすまゐして
まきのはわくる月をみるらん
一〇一八 月かげのいりぬるあとにおもふかな
まよはむやみのゆくすゑのそら
摂政前右大臣の家に百首歌
よませ侍ける時、月の歌のなかに
よめる 俊恵法し
一〇一九 このよにてむそぢはなれぬ秋の月」
月の歌とてよめる
円位法師
一〇二三 こむよにはこころのうちにあらはさむ
あかでやみぬる月のひかりを
二条院の御時、四代まで侍臣
なることをおもひてよみ侍ける
皇太后宮大夫俊成
一〇二四 いかなればしづみながらにとしをへて
よよのくもゐの月をみつらむ」
ほりかはの院の御とき、百首のうた
たてまつりける時、述懐の心をよめる
藤原もととし
一〇二五 からくににしづみし人もわがごとく
みよまであはぬなげきをぞせし
(一〇二六) 僧都光覚、維摩会の講師
の請を申けるを、たびたびもれに
ければ、法性寺入道前太政大臣
にうらみ申けるを、しめぢの
はらのと侍けれども、またその」
一〇三〇 ゆくすゑをおもへばかなしつのくにの
ながらのはしも名はのこりけり
ながらのはしのわたりにてよめる
道命法し
一〇三一 なにごともかはりゆくめるよのなかに
むかしながらのはしばしらかな
おなじところにてよめる
道因法し
一〇三二 けふみればながらのはしはあともなし
むかしありきとききわたれども」
『古筆手鑑』所収 中納言経忠
一〇三四 しらくもにまがひやせましよしの山
おちくるたきのおとせざりせば
さがの大学寺にまかりて、これか
れうたよみ侍けるによみ侍ける
前大納言公任
一〇三五 たきのおとはたえてひさしくなりぬれど
なこそながれてなほきこえけれ
屏風にたきおちたるところを
よめる
(一〇三六) 藤原長たふ」
おなじ御時、うへのをのこども
だいをさぐりてうたつかうまつり
けるに、釣船をとりてよみ侍ける
権中納言俊忠
一〇四三 いはおろすかたこそなけれいせのうみの
しほせにかかるあまのつりふね
百首の歌のなかに、まつをよめる
修理大夫顕季
一〇四四 たまもかるいらこがさきのいはねまつ
いくよまでにかとしのへぬらむ」
巻第十七 雑歌中 一〇五二
いづみしきぶ
一〇六〇 花さかぬたにのそこにもすまなくに
ふかくもものをおもふはるかな
前大納言公任ながたにといふとこ
ろにこもりゐける時、つかはしける
法成寺入道前太政大臣
一〇六一 たにのとをとぢやはてつるうぐひすの
まつにおとせで春のくれぬる
(一〇六二) 山でらにこもり( )て侍りけるころ、雨
ふりて心ぼそかりけるに、人のまう」
右大将実房中将に侍けるとき、
十五首歌よませ侍けるに述懐
の歌とてよめる
中原師尚
一〇八三 かずならぬ身をうきぐものはれぬかな
さすがにいゑの風はふけども
学問料申侍けるをたまはらず
侍けるとき、人のとぶらへりけるか
へり事に、よみてつかはしける
大江匡範
一〇八四 おもひやれとよにあまれるともし火の
かかげかねたるこころぼそさを
だいしらず
藤原公重朝臣
一〇八五 よのうさをおもひしのぶと人もみよ
かくてふるやののきのけしきを
菅原是忠
一〇八六 ひく人もなくてすてたるあづさゆみ
こころづよきもかひなかりけり
二条院参河内侍」
一〇八七 いかでわれひまゆくこまをひきとめて
むかしにかへるみちをたづねむ
摂政右大臣のときの家の歌合
に、述懐の歌とてよめる
源師光
一〇八八 いまはただいけらぬものに身をなして
うまれぬのちのよにもふるかな」
(一〇八九) つかさめしにいせになりけるを、
じし申ける時、大僧正行尊が
もとにつかはしける」
一〇五三
一〇八七
一〇九一
一〇九二
一〇九三
一〇九四
一〇九五
一〇九六
一〇九七
一一〇七 あとたえてよをのがるべきみちなれや
いはさへこけのころもきてけり
述懐のこころをよみ侍ける
一一〇八 おもひいでのあらば心もとまりなむ
いとひやすきはうきよなりけり
おほみねとほり侍けるとき、笙の
いはやといふ宿にてよみ侍ける
前大僧正覚忠
一一〇九 やどりするいはやのとこのこけむしろ」
いくよになりぬねこそいられね
述懐歌とてよみ侍ける
大納言宗家
一一一〇 身のほどをしらずと人やおもふらむ
かくうきながらとしをへぬれば
右近中将忠良
一一一一 そむかばやまことのみちはしらずとも
うきよをいとふしるし許に
二条太皇太后宮の別当
(一一一二) そまがはにおろすいかだのうきながら」
だいしらず
法印倫円
一一一五 のぼるべきみちにぞまどふくらゐやま
これよりおくのしるべなければ
十月に法眼になりて侍ける又
のとしの春、傍官どもかかい
し侍けるをききてよめる
中納言長方
一一一六 もろ人の花さくはるをよそにみて
なほしぐるるはしゐしばのそで」
一一二四
一一二五
一一二六
源清雅九月許( )さまかへて山で
らに侍けるを、人のとひて侍ける
返事せよと申侍ければよみ
てつかはしける
源通清
一一四八 おもひやれならはぬ山にすみぞめの
そでにつゆおく秋のけしきを」
だいしらず
円位法し
一一四九 あかつきのあらしにたぐふかねのおとを
こころのそこにこたへてぞきく
一一五〇 いづくにか身をかくさましいとひいでて
うきよにふかき山なかりせば
述懐の百首歌よみ侍ける時、
しかの歌とてよめる
皇太后宮大夫俊成
一一五一 よのなかよみちこそなけれおもひいる
やまのおくにもしかぞなくなる」
一一五三
一一五五
前中納言雅頼まだ小男に侍り
けるとき、はじめて昇殿申さ
せ侍けるを、ゆるされて侍りければ
よみて奏せさせ侍ける
入道前中納言雅兼
一〇六七
一一五六 うれしさをかへすがえすもつつむべき
こけのたもとのせばくもあるかな」
巻第十八 雑歌下
(一一六〇) くなはくりかへしこころにそはぬ
身をうらむらむ
反歌
一一六一 よのなかはうき身にそへるかげなれや
おもひすつれどはなれざりけり
百首のうためしけるとき、よませ
たまうける
崇徳院 御製
(一一六二) しきしまややまとのうたのつたはりを」
なもあみだのいつもじをかみに
おきて、たびのこころをよめる
仁上法し
一一六八 なにとなくものぞかなしきあき風の
身にしむよはのたびのねざめは」
物名
さみだれをよめる
和泉しきぶ
(一一六九) よのほどにかりそめ人やきたりけむ」
一一六九
一一七〇
一一七一
空人法し
一一九五 おそろしやきそのかけぢのまろきばし
ふみみるたびにおちぬべきかな
(一一九六) かものやしろにこもりて侍ける
に、政平つねにまうできて歌
よみふえふきなどしてあそ
びけり、かたはらなるつぼねにこ
もりたる人をもしりてそなた
へもまかりなどしけるが、その人
いでて(の)ちひさしくまうでこざり」
もあるまじきことなり、おもひた
えねといひ侍ければよめる
安性法し俗名時元
一一九八 つらしとてさてはよもわれやまがらす
かしらはしろくなるよなりとも
阿弥陀の小呪のもじをうたの
かみにおきて、十首よみ侍りける
とき、おくにかき( )侍ける
源としよりの朝臣
(一一九九) かみにおけ(る)みじはまことのもじなれば」
巻第十九 釈教歌 一二〇三
一二〇四
一二〇五
一二〇五
一二〇六
一二〇七
百首歌よませ侍りけるとき、法文の
うたに、五智如来をよみ侍けるに、
平等性智のこころをよみ侍りける
摂政前右大臣
一二二三 人ごとにかはるはゆめのまどひにて
さむればおなじこころなりけり
維摩経十喩、此身如水中月
といへるこころをよめる
宮内卿永範
(一二二四) すめばみゆにごればかくるさだめなき」
寿量品のこころをよめる
円位法し
一二三一 わしのやま月をいりぬとみるひとは
くらきにまよふこころなりけり
瞻西上人雲居寺の極楽( )に、堀
河の左大臣まいりて、( )歌よみ侍
けるによめる
神祇伯顕仲
一二三二 いさぎよきいけにかげこそうかびぬれ
しづみやせむとおもふわが身を」
鶴見大学図書館所蔵
一二三五 おとろかぬわかこゝろこそうかりけれ
はかなきよをはゆめとみなから
高野にまいりてよみ侍ける
寂蓮法し
一二三六 あか□きをたかのゝやまにまつほとや
こけのしたにもありあけの月
煩悩即菩提のこゝろをよめる
式子内親王の中将
一二三五 おもひとくこゝろひとつになりぬれは
こほりもみつもへたてさりけり」
一二四一
をよめる
中原有安
一二四七 まちいでていかにうれしくおもほえむ
はつかあまりの山のはの月
ゆきのあした聞法といへるこころ
をよめる
中原清重
一二四八 あさまだきみのりのにはにふるゆきは
そらより花のちるかとぞみる
(一二四九) 山しなでらの涅槃会のくれ
がたに、遮羅入滅のむかしを」
一二五〇
・伊井春樹編『古筆切資料集成』巻二勅撰集下(思文閣出版、平成元年)
・小松茂美著『古筆学大成』9 千載和歌集(講談社、一九八九年一月 第一刷発行)
・冷泉家時雨亭叢書『古筆断簡』 第二期第九巻(冷泉家時雨亭文庫編、一九九五年二月 第一刷発行)
・松野陽一著『千載集−勅撰和歌集はどう編まれたか』セミナー[原典を読む]3(一九九四年六月 初版第一刷発行、国文学研究資料館編)
・『平安かなの美』城弘一編、二玄社(二〇〇四年十月 初版一刷発行)