『撰集抄』一帖 序

『撰集抄』一帖 序

生死の長眠いまださめやらで、夢にのみ
ほたされつゝ、水の面の月を実と思ひ、
鏡のうちの影を、けにとふかく思入て、
明暮は只妄の心のみうちつゝきて、生死
の船をよそへすして、屠所のひつ
しの歩、我身の外にもてはなれ、鳥
部船岡の煙をよそにみて、(過)にし」二ウ

かた四十よ年の霜をいたゝき、行末
不知、今日にもやあるらむ。しかれば、同夢
の内の遊にも、新旧の賢跡を撰求
ける事の葉を書集、撰集抄と名づけ
て、座の右におきて、一筋に知識にたの
まむと也。巻は九品の浄土に思ひあてゝ、
十に一をさだする、事は八十好に思ひ
よそへて、百に廿を残せり。
抑凡夫のならひ、明目(アキラカナル)しいて真月
を不見。心乱て断妄の利剣をもた
ざる物也。されば偏冥助をあをき奉
らんが巻毎に神明の御事を注載奉
るに侍り。

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