冷泉家時雨亭文庫本は、誤脱補記や訂正が多く、必ずしも善本とはいえない。
時雨亭文庫本と、それを臨写した宮内庁書陵部本(四〇五/八七)の誤写、誤脱部分を比較してみる。
時雨亭文庫本の誤写と認められる箇所は、同じ藤原通俊自筆本系統の国立歴史民俗博物館本の本文も示した。
歌番号 時雨亭文庫本 書陵部本
三 なこそのせき なこそせき
一〇九 詞書 見花ところ 見花ところ(正しくは、「見花といふころ」)
一二四 作者 賀左衛門 賀左衛門(正しくは、「加賀左衛門」)
一六二 はるなれば はるなれば(国立歴史民俗博物館本は、「はるなけば」)
二三一 詞書 如秋といふ心を 如秋といふを
二六五 左注 覚源法師 覚源法師
二六七 すずむしこゑ すずむしこゑ(国立歴史民俗博物館本は、「すずむしのこゑ」)
二六九 すずむしこゑ すずむしこゑ(国立歴史民俗博物館本は、「すずむしのこゑ」)
三二一 二条小右近 二条小右近(正しくは、「三条小右近」)
三三一 作者 源頼家朝臣 源頼宗朝臣
三三二 しかのねきかぬ しかねきかぬ
三三四 なににかは なににかは(正しくは、「なにしかは」)
三五一 翫庭菊て 翫庭菊て(正しくは、「翫庭菊題にて」)
三五六 かれがいへ かれるいへ
三五九 詞書 入道前太政大臣 入道前大政大臣
三七二 作者 藤範永朝臣 藤範永朝臣(正しくは、「藤原範永朝臣」)
三八〇 作者 藤兼房朝臣 藤兼房朝臣(正しくは、「藤原兼房朝臣」)
四二〇 詞書 入道前太政大臣 入道前大政大臣
修行のとも 修行のもと
四二二 はるとともにや はるととにや
四二九 詞書 さきの大政大臣 さきの大政大臣(国立歴史民俗博物館本は、「さきの太政大臣」)
四三一 ふる心なき ふた心なき
四三六 まつのふたば まつのふるは
四五四 作者 冷泉院 冷泉院(正しくは、「後冷泉院」)
四六六 詞書 あふさかのほどより あふさかのほどり
五三八 詞書 はべりけるところ はべりけるころ
五四五 とりべ山 ともへ山
五五〇 作者 大和宣下 大和宣下(国立歴史民俗博物館本は、「大和宣旨」)
五六一 詞書 くだりてはべり くだりはべり
五七九 詞書 棟政朝臣許 棟政朝臣許(正しくは、「棟政朝臣の許」)
六〇八 作者 源頼家朝臣母 源頼家朝臣
六四九 詞書 まいりて侍ける まいり侍ける
六六一 和歌 たかとなりにけり たかなりにけり
七二三 詞書 かへしていひ かへしいひ
七三二 詞書 をむなのたよりに をんなのたよりに
八七五 詞書 かの小弁が かの弁が
八九〇 詞書 なくなくりて なくなくりて(国立歴史民俗博物館本は、「なくなりて」)
八九五 詞書 人ははべらざりけれ 人はべらざりけれ
八九七 詞書 宇治前太政大臣 宇治前大政大臣
八九九 詞書 故皇大后宮 故皇大后宮(正しくは、「故皇太后宮」)
九三〇 詞書 お(む)つましき おつましき(国立歴史民俗博物館本は、「むつましき」)
時雨亭文庫本は、「お」の上に「む」と重ね書きしてある。
九三二 詞書 入道前太政大臣 入道前大政大臣
九四一 詞書 はらからなどいふ はらからなどといふ
九五五 詞書 このはのいたう このはいたう
九八九 詞書 宇治前大政大臣 宇治前大政大臣(国立歴史民俗博物館本は、「宇治前太政大臣」)
一〇〇一 詞書 わづらひてのち わづらひてのち
一〇三二 詞書 まかりなりて まかりて
一〇四一 いかがととはば いかがとはば
一〇七〇 詞書 かへららせ かへららせ(国立歴史民俗博物館本は、「かへらせ」)
一〇七六 ときやきぬ覧 ときやきぬらん
一〇七七 詞書 かへりはべりける かへりける
一一二〇 詞書 ひきつれてまいり ひきつれまいり
うちとけざまは うちとけざまに
一一四六 詞書 四条宮 四条の宮(国立歴史民俗博物館本は、「四条宮」)
一一五〇 詞書 とがめける(こと)など とがめけるなど
一一六〇 詞書 託宣 宣託
さかづきに さか月に
一一八二 作者 伊世大輔 伊世大輔(正しくは、「伊せ大輔」)
一一八四 詞書 太皇大后宮 太皇太后宮
作者 伊せ大甫 伊せ大甫(国立歴史民俗博物館本は、「伊せ大輔」)
一一八六 詞書 太皇大后宮 太皇大后宮(正しくは、「太皇太后宮」)
たまとなる覧 たまとなるらん
一一九一 作者 伊世中将 伊世中将(正しくは、「伊せ中将」)
一二〇三 詞書 三条太政大臣 三条大政大臣
一二〇六 作者 堀河右大臣 堀川右大臣
一二〇七 作者 増基法し 増基法師
上記の比較から、書陵部本の誤写を、時雨亭文庫本によって三十六箇所補訂する。 また、時雨亭文庫本の誤写を、国立歴史民俗博物館本によって八箇所補訂する。
上記の比較から、書陵部本を底本としている新編国歌大観の本文を十六箇所補訂する。
一三六 詞書 いつきのぼり→いつきの宮のぼり
一六八 こまや→こまも
四二〇 詞書 修行のもと→修行のとも
四三一 ふた心なき→ふる心なき
五六一 詞書 くだりはべり→くだりてはべり
六四九 詞書 まゐり侍ける→まゐりて侍ける
七二三 詞書 かへしいひ→かへしていひ
七三二 詞書 をんなのたよりに→をむなのたよりに
八一四 とこのうらかな→とこのうちかな(「ち」か「ら」か判読不能だが、意味を考慮して)
八七五 詞書 かの弁が→かの小弁が
八九五 詞書 人もはべらざりけれ→人ははべらざりけれ
九四一 詞書 はらからなどいはむといふ→はらからなどいふ
九五五 詞書 このはいたう→このはのいたう
一〇七七 詞書 かへりける→かへりはべりける
一一二〇 詞書 ひきつれ→ひきつれて
一一四六 詞書 四条の宮→四条宮
一一五〇 詞書 とがめけるなど→とがめける(こと)など
一一六〇 さか月に→さかづきに
一二〇六 作者 堀河右大臣 堀川右大臣
一二〇七 作者 増基法し 増基法師
上記の比較から、書陵部本を底本としている新日本古典文学大系の本文を二十一箇所補訂する。
五六一 詞書 くだりはべり→くだりてはべり
六四九 詞書 まいり侍ける→まいりて侍ける
七二三 詞書 かへしいひ→かへしていひ
七三二 詞書 をんなのたよりに→をむなのたよりに
八七五 詞書 かの弁が→かの小弁が
八九五 詞書 人はべらざりけれ→人ははべらざりけれ
九〇三 かるをみるみる→もるをみるみる
九四一 詞書 はらからなどといふ→はらからなどいふ
九五五 詞書 このはいたう→このはのいたう
一〇三二 詞書 まかりて→まかりなりて
一〇七六 ときやきぬらん→ときやきぬ覧
一〇七七 詞書 かへりける→かへりはべりける
一一〇七 詞書 大政大臣→太政大臣
一一〇八 作者 入道前大政大臣→入道前太政大臣
一一一四 詞書 二条前大政大臣→二条前太政大臣
一一二〇 詞書 ひきつれ→ひきつれて
うちとけさまに→うちとけさまは
一一四六 詞書 四条の宮→四条宮
一一五〇 詞書 とがめけるなど→とがめける(こと)など
一一六〇 さか月に→さかづきに
一一八六 たまとなるらん→たまとなる覧
一二〇六 作者 堀河右大臣 堀川右大臣
一二〇七 作者 増基法し 増基法師
参考文献 ・『国立歴史民俗博物館蔵 貴重典籍叢書』文学篇 第三巻<勅撰集3>
二〇〇一年十一月 初版発行(臨川書店)、館蔵史料編集会
鎌倉時代後期書写、一一九一番歌〜一二一七番歌まで欠脱がある。