陽明文庫本 巻第一 春歌上
崇徳院に百首歌たてまつりけるとき、よみ侍りける
大炊御門右大臣
21 〈校異〉書陵部本は、作者名の下に「公能公」と小字で注する。
〈作者〉藤原公能(ふじわらのきんよし) 永久三年(1115)生〜永暦二年(1161)八月十一日没。享年四十七。
平治二年(1159)、右大臣正二位となる。大炊御門に屋敷があった。『久安百首』に詠進する。『詞花和歌集』以下の勅撰集に三十二首入る。
〈語釈〉○むめの花をりて…(白)梅の花(が咲いている枝)を折って。
○かざしにさしつれば…髪飾りに挿すと。
○衣におつる…。
○雪かとぞみる…桜の花を、雪に見立てるときに多く用いられた詞である。
梅の花を、雪に見立てるときに用いたのは、勅撰和歌集ではこの歌が初めである。
〈古注釈〉北村季吟『八代集抄』「」
〈現代語訳〉(白)梅の花(が咲いている枝)を折って髪飾りに挿すと、衣に落ちる雪ではないかと見ることだ。
〈批評〉。
公能の歌のある作品成立年代
〈出典〉『久安百首』春・104
〈別出〉なし
『古今和歌集』春上・36 鶯の笠に縫ふといふ梅の花折りてかざさむ老いかくるやと
『古今和歌集』911 わたつ海のかざしにさせる白妙の浪もてゆけるあはち島山
『後撰和歌集』1360 花咲きて実ならぬ物はわたつうみのかざしにさせる沖つ白波
『拾遺和歌集』春・65 あしひきの山地に散れる桜花消えせぬ春の雪かとぞ見る
『千載和歌集』春下・104 したさゆる氷室の山のをそざくら消えのこりける雪かとぞ見る(源仲正)
『小大君集』82 おほゐがはそまやまかぜのさむければいはうつなみをゆきかとぞ見る
『赤染衛門集』488 消えはてぬゆきかとぞみる谷川のいはまをわける水のしら波
| 作 品 | 成 立 年 代 |
| 『久安百首』 | 久安六年(1150)に成立。 |
| 『千載和歌集』 | 文治四年(1188)に成立。 |
陽明文庫本 巻第一 春歌上
(題しらず) 右大臣
27 〈校異〉陽明文庫本 詞書なし
〈作者〉藤原実定(ふじわらのさねさだ) 保延五年(1139)生〜建久二年(1191)十二月十六日没。享年五十三。
文治二年(1186)に右大臣、文治五年(1189)には左大臣となる。家集に『林下集』がある。『千載和歌集』以下の勅撰和歌集に
七十九首入る。
〈語釈〉○なく一えだは…係助詞の「は」は、ある事柄を不特定多数の中から特に取り立てて、主題として示す。
○をらましものを…助動詞の「まし」は、反実仮想を表す。もし…なら〜だろう。
終助詞「ものを」は、活用語の連体形につき、詠嘆の意味を表す。…のになあ。
〈古注釈〉北村季吟『八代集抄』 鶯の鳴梅が枝の面白きに折れても、鶯の声うつりてある物ならば折がたく惜き梅
なれど鳴一枝はをらん物をと也。
〈現代語訳〉梅の香りに声が移ったならば、鶯の鳴く一枝は折っただろうになあ。
〈批評〉。
〈参考歌〉『林葉和歌集』54 うぐひすの鳴つる枝はたをれども声の色こそとまらざりけれ
『夫木和歌集』2901(源顕国朝臣) なきわたるこゑうつりせばほととぎすひのくまがはにこまとめてまし
実定の歌のある作品成立年代
〈出典〉『林下集』4 詞書「はるのうたのなかに」・第四句「なくひとえだを」
〈別出〉なし
『万葉集』1750 いとまあらはなつさひわたりむかつをのさくらのはなもをらましものを
『林葉和歌集』は、俊恵(1113〜1191)の自撰家集である。治承二年(1178)の成立。
源顕国(みなもとのあきくに)は、天仁三年(1110)まで生存。
| 作 品 | 成 立 年 代 |
| 『林下集』 | 治承四年(1180)頃に成立。 |
| 『千載和歌集』 |
文治四年(1188)に成立。 |
〈参考文献〉・