系統分類基準歌
王昭君のこころを読侍ける 右大臣(巻第七・離別歌、495)
A あらずのみなりゆくたびの別ぢにてなれしことのねこそかはらね
(千鳥をよめる) 右大臣(巻第六・冬歌、426と427の間)
B 暁になりやしぬらむ月影の清き河原に千鳥なくなり
(崇徳院に百首歌たてまつりける時、恋の歌とてよめる) 藤原清輔朝臣(巻第十四・恋歌四、859)
C 露ふかきあさまの野辺にをかや刈るしづの袂もかくは濡れしを
宗子(巻第十六・雑歌上、999と1000の間)
D 山のはの月もろともにかくれなば思ひいでむやおもひいでしや
左馬頭行盛(巻第八・羇旅、541と542の間)
E 君すめばここも雲ゐの月なれどなを恋しきは宮子なりけり
系統 系統分類基準歌の有無
代表的な伝本
甲一類 A 有 B 無 C 有 D 有 E 無
・静嘉堂文庫蔵十四冊本八代集
・志香須賀文庫蔵八代集
甲二類 A 有 B 無 C 有 D 無 E 無
・陽明文庫蔵、宋雅の応永二十六年(1419)奥書本。近世初期書写。
校合本文を整理すると、ほとんどの部分にわたって静嘉堂文庫蔵本の本文と一致する。
乙一類 A 無 B 無 C 有 D 無 E 有
・谷山茂氏蔵D本
・穂久迩文庫蔵酒井家旧蔵八代集本
乙二類 A 無 B 無 C 有 D 無 E 無
・御物本伝寂蓮筆 鎌倉時代初期書写、上帖のみ。
三条西実隆(1455-1537)筆本系統
・書陵部蔵十一冊八代集本 転写本。「従三位頼政」「仁和寺二品法親王(守覚)」「前斎宮河内」の作者表記。俊成の契後隠恋歌は798の次にある。
・早大図書館蔵八代集本 転写本。
・京大図書館蔵貞享四年奥書本 転写本。「従三位頼政」「仁和寺二品法親王(守覚)」の作者表記。俊成の契後隠恋歌は798の次にある。
奏覧本系統 古写本が多い。欠点が多く善本とは言えない。俊成の契後隠恋歌は794の位置。「河内」の作者表記。
・静嘉堂文庫蔵伝冷泉為秀筆本 南北朝時代書写。「奏覧正本也俊成 在判」の奥書あり。
巻第五・337、巻第六・412、巻第十三・805〜809番歌を欠き、巻第九・588〜591が重複する。表記が364のみ「従三位頼政」で
不統一な点や、巻第十四・870の作者を「藤原経衡」(他本では「よみ人しらず」)とするなど、善本とは言い難い。
序 たゞさはらざる たづさはらざる(陽・書・龍・実・抄)イ本
すみかを すみかをば(陽・書・龍・堀・実・抄)右傍
すぐさず すぐさぬ(書・堀・抄)傍書
心のいづみ ことばのいづみ(龍・堀)ことばミセケチ
後拾遺集 かの後拾遺集(陽・書・龍・堀・実)かのミセケチ
なりにけり なりにける(陽・龍・実・抄)イ本
すぎけるかた すぎにしかた(抄)イ本
なずらへて ならへて
ありければ ありけれど(陽・書・龍・堀・実・抄)イ本
さかえざる さりえざる傍書
つとめきれる つとめきたれる(龍)左傍
ふをえらぶ しふをえらぶ(陽・書・龍・堀・実・抄)イ本
のりのすべらぎ 君のすべらぎイ本
ことは ことのは(陽・書・龍・堀・抄)右傍
15 ををて ををりて(龍)右傍
19 やまは やどは(陽・書・龍・堀・実・抄)傍書
21 をもて をりて(陽・書・龍・堀・実・抄)傍書
22 あくがらしけれ あくがれにけれイ本
23 そこに そらに(陽・書・龍・堀・実・抄)イ本
25詞むめ むめの(龍)右傍
30詞つかはさん つかはさで傍書
31 かぞいろは かぞいろかイ本
32 すそののはらぞ 朝のはらぞイ本
37 そこの そらの(陽・書・龍・堀・実・抄)イ本
38 かりがな かりがね(陽・書・龍・堀・実・抄)傍書
43 たづぬ たづぬと(陽・書・龍・堀・実・抄)補入
47 おほきおほい 前太政大臣(陽・書・龍・堀・実・抄)右傍
67詞人 人々補入
68 かかる かくる(陽・龍)ミセケチ
81詞家 家の(龍)右傍
81 かかる かへる(堀・抄)イ本
88 みねにぞ みねにも傍書
90 わすれにける わすられにける(陽・書・龍・堀・実・抄)補入
108 すみれさく すみれ草(陽・書・龍)傍書
132 ちら ちらぬ(龍)補入
135 河内 前斎宮河内(実・抄)補入
141 うのはなを うのはなの(実)イ本
145 詞侍ける 侍けるに(龍)右傍
150 ほの ほのか(陽・書・龍・堀・実・抄)補入
157 はつこゑを はつこゑも
157 くものそこ くものそら、くもの外イ本
159 前右京大夫よりまさ 従三位よりまさ(実・抄)イ本
160 身ならずは 身ならせばイ本
163 ほのかにもなく ほのかになのる(龍・実・抄)イ本
164 きくも ききも(龍)傍書
166 ふたこゑ 一こゑ傍書
168 たびね かりね(陽・書・龍・堀・実・抄)イ本
169 ぬきの ぬまの(陽・書・龍・堀・実・抄)傍書
・書陵部蔵二冊本 南北朝時代書写。「前右京大夫頼政」「仁和寺法親王守覚」の作者表記。
落丁七葉、重複一丁のほか欠点が多い。
・龍門文庫本 鎌倉時代末期書写。「前右京大夫頼政」「仁和寺法親王守覚」の作者表記。
340、341、637番歌を欠いている。
丙類 A 無 B 有 C 無 D 無 E 無
・穂久迩文庫蔵正保二年(1645)玄陳筆本
・正保四年(1647)板本
特徴 「従三位頼政」の作者表記は、日野切と共通する。
丁類 A 無 B 有 C 有 D 無 E 無
・穂久迩文庫蔵二十一代集二冊本 文明九年(1447)邦高筆。
・八代集抄本 天和二年(1682)刊 北村季吟編。
特徴 「従三位頼政」の作者表記は、日野切と共通する。「前斎宮河内」の作者表記。
藤原俊成筆日野切 A ? B ? C 有 D 無 E ?
1195番歌の作者名「安性法師」の下に「俗名時元」と小書きで注記してある点も、奏覧本でない
ことを示すであろう。「従三位頼政」の作者表記。
その他 A・B・C・D。E歌なし。
・国学院大学蔵本 上巻は鎌倉時代中期書写で乙類に属するか。「前右京大夫頼政」の作者表記。
下巻は江戸時代中期の冷泉為久(1686-1741)筆で丙類に属するか。「従三位頼政」の作者表記。
上下巻とも「仁和寺法親王守覚」の作者表記。俊成の契後隠恋の歌は794番の位置。
・谷山茂氏蔵I本
A歌とB歌は同じ右大臣実定の作なので、俊成が推敲の段階で、A歌を切り出し、B歌を切り入れる、という事情があったのでは
ないかと述べている。頼政の位署が「前右京大夫」で統一された伝本は、ほとんどが俊成の契後隠恋歌を794の位置に持つ。
頼政は、嘉応二年(1170)正月に右京権大夫となり、治承二年(1178)十二月に従三位に叙された。
甲一類から甲二類へ、乙一類から乙二類へと、和歌が一首切り出された。丙類に現状では古写本が見出せないことから、
丁類からC歌が脱落したと考える。甲類は伝本の由来がはっきりしないが、乙類は
古写本が多く奥書のあるものが多い。
参考文献 ・『千載和歌集』久保田淳・松野陽一校注 笠間叢書17(昭和44年9月 初版発行)
・『千載和歌集 上』谷山茂編 笠間影印叢刊48(昭和48年7月 初版発行)
千載和歌集 五十歳のころ、心敬(1406-1475)と名を改める。
上下二冊。縦21.7cm×横15cm。室町時代書写。
やまとみことのうたは、ちはやぶる神の世より
はじまりて、ならの葉のなにおふ宮にひろ
まれり。たましきたひらのみやこにして、延喜
のひじりの御世には古今集をえらばれ、天
暦のかしこき御時には、後撰集をあつめ給ひ、
しら河の御世には後拾遺を勅せしめ給ひ、
堀川の先帝はももちのうたをたてまつらしめ給
へり。 おほよそこのことわざわが世風俗として、」一ウ
これをこのみもてあそべば名をよよにのこし、
これをまなびたたさはらざるはおもてをかきに
してたてらむがごとし。かかりければ、この世にむま
れとむまれ、わがくににきたりときたる人は、たかき
もくだれるも、このうたをよまざるは少なし。
聖徳太子はかたをか山のみことをのべ、伝教大
師はわがたつそまのこと葉をのこせり。(よりて)代々の
みかどもこのみちをばすてたまはざるをや。ただ
しまた、集をえらび給ふことなをまれになむ」二オ
千載和歌集 天理図書館所蔵、伝世尊寺行忠筆。南北朝時代(1333-1392)書写。乙類系統。 世尊寺行忠自筆本には、『古今顕名抄』がある。
やまとみことのうたは、ちはやぶる神代より
はじまりて、ならの葉のなにおふ宮にひろまれ
り。たましきたひらのみやこにしては、延喜の
ひじりのみ世には古今集をゑらばれ、天暦のかし
こき御時には、後撰集をあつめたまひ、白
河御世には後拾遺を勅せしめ、堀河の先帝は
ももちのうたをたてまつらしめたまへり。おほ
よそこのことわざわがよの風俗として、これをこの(み)」ウ
もてあそべば名を世々にのこし、これをまなびたづ
さはらざるはおもてをかきにしてたてらむがごとし。
かかりければ、この世にむよれとむまれ、わがくににき
たりときたる人は、たかきもくだれるも、このうた
をよまざるはすくなし。聖徳太子はかたおか山のみことを
のべ、伝教大師わがたつそまのこと葉をのこせり。よりて
世々のみかどもこの道をばすてたまはざるをや。ただ(し)
又、集をえらびたまふあとはなをよれになむありける。
我君よをしろしめして、たもちはじめ給(と)を名づけし」オ
千載和歌集巻第一
春歌上
春立ける日よみ侍ける
源俊頼朝臣
春のくるあしたのはらを見わたせば霞もけふぞたちはじめける
堀河院御時、百首歌たてまつりける時よめる
中納言国信
みむろ山たににや春のたちぬらむ雪のした水いはたたくなり
百首の歌たてまつりける時、はじめの春の心をよめる」ウ
待賢門院堀河
雪ふかきいはのかけみち跡たゆるよし野のさとも春はきにけり
堀河院御時、百首歌たてまつりける時、残雪を
よめる 前中納言匡房
みちたゆといとひしものを山里にきゆるはおしきこぞの雪かな
承暦二年内裏後番の歌合に鶯をよめる
藤原顕綱朝臣
春たてば雪のした水うちとけてたにのうぐひすいまぞなくなる
後冷泉院御時、皇后宮歌合によみ侍ける」オ
千載和歌集巻第十一
恋歌一
堀河院御時、百首のうたたてまつりけるとき、初恋
のこころをよめる 源俊頼朝臣
なにはえのもにうづもるる玉かしはあらはれてだに人を恋ばや
二条太皇大后宮肥後
まだしらぬ人をはじめてこふるかなおもふこころよ道しるべせよ
前斎宮河内
わりなしやおもふ心の色ならばこれぞそれとも見せましものを
権中納言俊忠中将に侍ける時歌合し侍ける
に、初恋の心をよめる 後二条関白家筑前
思よりいつしかぬるるたもとかな涙ぞ恋のしるべなりける
女につかはしける 藤原長能
もくづびのいそまをわくるいさり舟ほのかなりしにおもひそめてき
題不知 延久無品親王輔仁
いかにせむおもひを人にそめながら色にいでじとしのぶ心を
徳大寺左大臣
ひとめみし人はたれとも白雲のうはのそらなる恋もするかな
解説 巻第十一の642番歌の「二条太皇大后宮肥後」、643番歌の「前斎宮河内」、646番歌の「延久無品親王輔仁」 という作者表記は、宮内庁書陵部蔵十一冊八代集(510.10)の逍遥院(三条西実隆)筆本の転写本と同じである。 三条西実隆は、康正元年(1455)四月二十五日に誕生し、天文六年(1537)十月三日に没している。
千載和歌集 駒澤大学図書館所蔵伝蜷川親当(にながわちかまさ、文安五年[1448]五月十二日没)筆本。 伝蜷川親当筆とするものに、鶴見大学所蔵『長秋詠藻』(巻中零本、室町時代中期書写)巻子、一軸がある。
859番歌の藤原清輔朝臣「露ふかきあさまののらにをかやかるしつの袂もかくはぬれしを」があるので、乙類系統の伝本。
作者表記は、八代集抄本にもっとも近い。
巻十三恋歌三の歌順は、794番歌・795番歌・796番歌と配列されている。
794 なをさりにみわの杉とはをしへ置て尋ぬる時はあはぬ君かな
契後隠恋 皇太后宮大夫俊成
795 たのめこし野辺の道芝夏ふかしいづくなるらんもすの草くき
作者表記
| 伝蜷川親当筆本 | 国学院大学蔵本 | |||||||||||||||||||
| 22番歌 | 和泉式部 | 和泉式部 | ||||||||||||||||||
| 38番歌 | 従三位頼政 | 前右京権大夫頼政 | ||||||||||||||||||
| 159番歌 | 従三位頼政 | 前右京権大夫頼政 | ||||||||||||||||||
| 365番歌 | 従三位よりまさ | 前右京権大夫頼政 | ||||||||||||||||||
| 408番歌 | 従三位頼政 | 前右京権大夫頼政 | ||||||||||||||||||
| 459番歌 | 従三位頼政 | 前右京権大夫頼政 | ||||||||||||||||||
| 663番歌 | 従三位頼政 | 従三位頼政 | ||||||||||||||||||
| 693番歌 | 従三位頼政 | 従三位頼政 | ||||||||||||||||||
| 723番歌 | 従三位頼政 | 従三位頼政 | ||||||||||||||||||
| 754番歌 | 従三位頼政 | 従三位頼政 | ||||||||||||||||||
| 805番歌 | 従三位頼政 | 従三位頼政 | ||||||||||||||||||
| 828番歌 | 従三位頼政 | 従三位頼政 | ||||||||||||||||||
| 868番歌 | 前右京権大夫よりまさ | 従三位頼政 | ||||||||||||||||||
| 887番歌 | 従三位よりまさ | 従三位頼政 | ||||||||||||||||||
| 978番歌 | 前右京権大夫よりまさ | 従三位頼政 | ||||||||||||||||||
| 177番歌 | 延久第三親王輔仁 | |||||||||||||||||||
| 308番歌 | 輔仁のみこ | |||||||||||||||||||
| 645番歌 | 輔仁親王 | |||||||||||||||||||
| 1100番歌 | 輔仁のみこ | |||||||||||||||||||
| 1182番歌 | 輔仁親王 | |||||||||||||||||||
| 28番歌 | 仁和寺二品法親王守覚 | 仁和寺法親王守覚 | ||||||||||||||||||
| 157番歌 | 仁和寺法親王守覚 | 仁和寺法親王守覚
| 227番歌 | 二品法親王 | 仁和寺法親王守覚
| 262番歌 | 二品法親王 | 仁和寺法親王守覚
| 456番歌 | 二品法親王 | 仁和寺法親王守覚
| 532番歌 | 二品親王守覚 | 仁和寺法親王守覚
| 1107番歌 | 仁和寺法親王 | 仁和寺法親王守覚
| 1134番歌 | 仁和寺法親王守覚 | 仁和寺法親王守覚 | |
642番歌
643番歌
646番歌
陽明文庫本歌数
巻第一 七十六首
巻第二 五十九首
巻第三 九十首
巻第四 七十六首
巻第五 八十五首
巻第六 八十九首
巻第七 二十二首
巻第八 四十七首
巻第九 六十一首
巻第十 三十五首
巻第十一 六十三首
巻第十二 七十六首
巻第十三 六十首
巻第十四 六十四首
巻第十五 五十五首
巻第十六 九十三首
巻第十七 一〇八首
巻第十八 四十二首
巻第十九 五十四首
巻第二十 三十三首
千載和歌集 侍従職所蔵、伝寂蓮筆。鎌倉時代初期書写。
上巻のみ現存する。乙類系統。他本は「春歌上」としているのを「春哥一」とし、
「千載和歌集巻第一」を「千載和哥集巻第三」と表記を変えるなど、書写の態度は厳密ではない。
やまとみことのうたは、ちはやぶる
神世よりはじまりて、ならのはの名
におふみやにひろまれり。たましきた
ひらの都にしては、延喜のひじり
のみよには古今集をえらばれ、天(暦)
のかしこきお(ほ)むとき (は)、後撰集
をあつめたまひ、白河のお(ほ)むよには
後拾遺を勅せしめ、堀河の先帝はもも」
千載和歌集巻第一
春歌一
春立ける日よめる
源俊頼朝臣
はるのくるあしたのはらをみわたせば
かすみもけふぞたちはじめける
堀河院の御時、百首歌たてまつり
けるときよめる
中納言国信」
千載和歌集巻第三
夏歌
堀河の院の御とき、百首歌たてま
つりけるとき、ころもがへの心をよみ
はべりける
前中納言匡房
なつごろもはなのたもとにぬぎかへて
はるのかたみもとまらざりけり
藤原もととし」